工事現場の裏側〜副都心線の工事現場で資材を運んでいた頃の思い出〜

3/18/2013 Leo Rivas(リオ・リーバス) 0 Comments


先日、とうとう東横線・副都心線の相互直通運転が開始しましたね!埼玉から横浜まで乗り換え無しで一本で行けるようになった事に喜ぶ人もいれば、渋谷駅での乗り換えが不便になって不満という方も多いようですね。

副都心線と言えば、僕にはちょっとした思い入れがあります。というのも、ほんの少しとはいえ工事段階で関わった事のあるプロジェクトだからです。

僕のブログを以前からお読み頂いている読者の方ならばご存知の方も多いかと思いますが、僕は以前、創作活動の合間に工事現場のアルバイトをしていました。「荷揚げ(にあげ)」という職種で、主に工事現場に運ばれてくる資材の搬入や、使わなかった資材や廃棄物の搬出などをする仕事です。これらは基本的には手作業になるため、工事現場の中でも最も体力と力を使う仕事です。

この仕事をしていた経緯については過去記事や妻のブログ記事に詳しく書かれています:
>> 飛躍の1年:さよなら工事現場。

>> iPhoneアプリ開発者の妻になるまで。

僕がアルバイトで副都心線の工事用の資材を運んでいたのは確か2007年〜2008年頃だったはずです。だいぶ前の事なので曖昧で申し訳ありません。ただ、その頃聞いていた「2013年に直通になる」なんて話は、遠い先の話だな〜と思っていた記憶が残っているので、ニュースでこの話題を見た時は「え?もう?」と思ってしまいました(^^;;

この副都心線の工事というのは基本的に終電が終わって、始発がはじまるまでの短い時間に行われていて、資材の搬入や搬出なども基本的には深夜に行われます。これは地下鉄などに限った事ではなく、JRなどの修繕工事なども同じです。前日はなかったはずのKIOSKが次の朝には突然できていた、なんて光景を目の当たりにした事のある人もいるかもしれませんが、それはたったの4時間という時間内で搬入から組み立てまで全て一晩で行ってしまっているからです。こんな事を実現可能にする為にも、搬入は1分でも早く効率的に行わなければいけない大事な仕事の一つです。現場に資材がこなければ、職人さんは何一つ仕事がはじまりませんから。

有名な話でご存知の方も多いと思いますが、1971年に日本で最初に出来た銀座三越内のマクドナルド第一号店というのは、40時間という制限内で作られました。三越の営業の邪魔にならないように、日曜日の閉店から定休日だった月曜日をまたいで、火曜日の朝までに完成させる事が三越で出店する為の条件だったのです。これを実現させる為に、都内のある空き地に出店予定と同じ空間を作り、そこで何度も何度も予行演習のシミュレーションを行い、最初は60時間ほどかかっていた作業を39時間まで短縮できるようにして、本番でも無事に時間制限内に完成させる事が出来たという話があります。こんな無茶な条件が課せられるのも、それを実際にやってのけてしまうのも、日本ならではだと思います。
全ての現場がこれほどまでにタイトなスケジュールを組み込まれているわけではないものの、お客さんに迷惑がかからないようにと、営業時間外の短い時間を駆使して多くの現場は動いています。

さて、話が脱線してしまいましたが、工事現場がどれだけの修羅場かというイメージが少しはつかめたと思うので、副都心線の現場の話に戻りましょう。

僕が副都心線駅の現場で運んだものは、石やタイルが多かったです。階段用の石や地面に貼る石、丸い柱の周りに貼る丸みのある大きなタイルなど。その他にも内装用の石膏ボードやLGS(軽量鉄骨:略して軽鉄。一本一本は確かに軽いのですが、束になってくるので実際はまったく軽くありません...)などの搬入もありました。後半は使わなかった資材や廃棄物の搬出などもあります。

運んだ物の中に「階段の石」というのがありますが、それはつまり搬入の時点では階段すら無いという事です。まだちゃんとした階段がない状態から地下にもぐって資材を運ばないといけません。ジャリっぽい坂道を下っていくのですが、階段と同じ急な角度の下り坂なので、結構な傾斜です。数十キロから5、60キロはある資材を一人づつ持って降りていくので、一歩間違えて滑ったりしたら大ケガする危険な作業です。

エレベーターやエスカレーターはそもそも終盤になるまで設置されませんし、されたところでそもそも、搬入・搬出には使わせてもらえませんので、全て階段で上り下りして運びます。地下までおりたら、長いまっすぐの通路であれば台車を使う事もありますが、経路に障害物や段差などがある場合は、いちいち積んだり降ろしたりを繰り返すのも時間の無駄になるため、目的地まで最後まで手で運ぶ事も多いです。

資材を中間地点などに置いて、別の誰かがバトンタッチして目的地まで持っていく場合や、とりあえずトラックから資材を降ろすだけ降ろしてから運び出す時、「仮置き」をします。本来ならばトラックから降ろしつつなるべく遠くまで運ぶ事が一番効率良く作業が進むのですが、トラックは深夜とは言え、そう長い間は道に止めておく事が出来ない事が多いため、なるべく早く資材を降ろす事を要求される事が多いのです。そのため、とりあえずトラックから全て降ろしてから運び出すという流れになる事も少なくありません。ただでさえ数時間の短い時間内に全ての資材を運びきらなければいけないのに、大体は何らかの都合上、効率よく作業ができない事が多いのです。

このようにして、数々の条件の中で最も効率的な段取りをした上で目的地まで資材が運ばれていき、職人さんの手に渡ります。この荷揚げという職種はバブルの頃に生まれたらしく、それまでは職人さんが自ら使用する資材を運ぶのが一般的だったようですが、作業効率を上げる為に「運ぶだけ」の専門職が生まれたそうです。実際、大きな現場などでは、10人くらいで取りかかっても朝から夜まで丸一日かけて資材を運ぶなんて事もありますから、「運ぶだけ」と言っても大仕事なんですよね。

運ばれている間に職人さんが本業の作業に集中できれば、それだけ作業が早く進むわけです。とはいえ、運ぶ人を20人に増やして、職人の数も倍増やせば、更に時間は半分に短縮できる!というほど単純なわけでもなく、狭い現場で人が多過ぎても今度は効率性が落ち始めます。無闇に人を増やしても人件費が増えるだけです。

適切な人数や、一度に運び込む資材の量などはかなり具体的に計算した上で搬入計画を作られなければいけません。とはいえ、やはり現実には搬入計画を組む人は自分で資材を運ぶわけではないので、限界ギリギリのところで上手く人件費を削減しようとするため、現場の中でも最も低い立場の荷揚げ屋が楽をさせて貰える事はそう滅多にはありません(^^;;
だからこそ一度に少しでも多く運んで時間を短縮する為にどんどん力が付く仕事でもあります。あまり頑張り過ぎて短時間で仕事が終わらせられるようになると、今度は足もとを見られて人数を削られたりする事もあり、更に頑張らなければいけなくなる事もありますけどね(笑)

まあ、そんなこんなで建設物というのは、何百、何千、時には何万人という人達が関わって、多くの血と汗と涙の結晶の塊というわけなのです。新しく出来た建物に入る時、工事現場の横を通り過ぎる時など、僕は必ずその裏舞台でのドラマを想像してしまいます。普段、通勤で何気なく踏んでいる地面や階段も一つ一つが「人」の手によって運ばれて、人の手で貼られて作られたものだという見方をすると、また違った視点で世界を見る事ができるかもしれません。

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