無国籍ハーフの半生 〜鎖国から150年。日本はどこまで変わる事ができたのだろうか?〜

1/22/2013 Leo Rivas(リオ・リーバス) 0 Comments

日本に住んでいて名前がカタカナだと何かと不自由な事が多い。

僕はアメリカ人の父と日本人の母の間で生まれたいわゆるハーフという事になるのだが、日本にハーフとして生まれる事は純日本人が考えているほど楽なものではない。

そもそも僕は、生まれた途端から「無国籍ベイビー」だった。日本からもアメリカからも国籍を貰えないという驚きの事態に陥った。
日本は1984年まで、父親が日本人でなければ子供に日本国籍を与える事ができなかったのだ。僕が生まれたのは1982年。法律が変わる2年前だ。
そして更に厄介な事に、アメリカで生まれた父は生後3ヶ月で祖父の仕事の関係上、ヨーロッパへ引っ越す事になり、国籍はアメリカ人にも関わらず、実質アメリカにはほとんど住んだ事がない。当時のアメリカの法律では、いくら親がアメリカ人であろうと、本人がアメリカに5歳以降10年以上住んでいた事を証明できなければ、海外で生まれた子に国籍を与える事ができない(*)。つまり、僕は生まれてから2年間、社会的には存在しないも同然の無国籍人だったというわけだ。

当然、当時の事は覚えてもいないし、苦労をしたのは僕ではなく、むしろ親の方だ。しかし、2歳から国籍を貰えるようになり、正式に日本国民になったとはいえ、日本人として同じ扱いを受ける事は容易な事ではない。

第一に容姿の問題だ。見た目からして真っ先に外人扱いを受けるのは基本中の基本である。そんな事はすぐに慣れてしまったが、気にするか気にしないかの個人差はあるだろう。これは気の持ちようで適応できなくもない範囲内だと個人的には思う。勿論、小さい頃に差別もいじめの経験もあったが、逆に得をするような事も沢山あったし、プラスの面もマイナスの面もあるという事は良く理解している。そのへんに関しては割り切りが大事だ。

【カタカナ=ガイジン】の法則

「名前」は僕がこの国で生活して直面した大きな問題の一つだ。ハーフの人すべてに当てはまる事ではないだろうが、名前が全てカタカナだと何かと苦労する。しかも長ければ尚更だ。
僕が普段使っている名前は「リオ・リーバス」で、それは本名の一部分で、実際は名字がもう一つあり、ミドルネームもあったりして、フルネームを文字にすると10文字ある。一般的な日本人の名前だとそうそう10文字にはならないが、外国名をカタカタで書くと余裕で10文字など超えてしまう事が多い。
ちなみに弟のマイケルは13文字、父なんかは18文字もある。

この文字数のどこが問題かと言うと、今はだいぶ考慮されるようになってきているものの、少し前は銀行などの口座を作ろうとしても、名前が長過ぎて全部は登録できない、などというトラブルが当たり前のように発生していた。
問題は、ルールにまったくの統一性が無いため、ある所では全部登録できたり、ある所では9文字で途切れたり、その時その時で登録する名前が微妙に違ってしまい、自分でも銀行ごとにどこまで名前が登録されているかの把握が難しくなってしまう。銀行側で登録されている名前とカードに書かれた名前が微妙に違うなんて事も多い。
そして、しまいには窓口で本人ではないから口座からお金をおろせないというとんでもない事も起きる。免許証の名前と登録してある名前が一致しないと言われるからだ。人の名前を勝手に削っておいて、登録してある名前と違うから本人確認ができないというのだ。これはもう笑うしかない。僕はこんな事態を人生の中で何度も経験してきている。

区役所に確定申告を提出するとかなりの確率で、「外国人証明書」が不足しているという理由で送り返される。名前がカタカナだと日本国籍を持っていても自動的に外国人と決めつけられ、外国人証明書がないと確定申告を受け付けてくれないのだ。役所にも関わらずその人物が国民かどうかのチェックもしない、もしくはする事が出来ないのだろうか?不思議で仕方ないが、日本はいまだにそんな事をやっている。

そして、この記事を書こうと思い立ったのは、今日もまた同じような経験をした為だ。

もうすぐ引っ越しという事もあり、電気・水道・ガスなどを止める手続きをインターネットで行っていたのだが、なんと「東京ガス」のサイトで手続きを行うと、名前が「カタカナ」という理由で自動的に法人扱いされてしまうのだ。
「英字」は受け付けているようだが、あいにく僕は最初にカタカナで登録したのでカタカナしか受け付けてもらえない。「カタカナ」の名前は法人として扱われてしまうので、法人ではないが指示に従って「性」の欄にフルネームを入力してみた。しかし、当然の事ではあるが、法人として登録していないので登録内容と一致しないようなエラーが生じてしまう。
そもそも、どうやらこのシステムは性と名の合計で10文字までしか入力できないらしい。
自分はギリギリ10文字で収まるが、弟や父だったら文字制限的にもアウトである。
この制限がある事からも、外国人名をシステム側が受け付けない設計になっているのがハッキリしている。どのような都合で制限を設けているのかは分からないが、今の東京にカタカナの名前の人、10文字以上の名前の人がどれだけいるかを考えられないというのが驚きである。現在、東京には外国人だけでも約35万人いて、更に日本国籍のカタカナ名義の人も大勢いるはずだが、その数十万人を存在しないかのような扱いを、東京ガスともあろう日本の大企業がしているのだ。鎖国から150年以上経つにも関わらず、本質的な部分は何も変わっていない事を物語っている。

ちなみに、これは数年前の引っ越しの時にも同じように引っかかった記憶があり、その時も改善をお願いする為、電話を入れたはずなのだが、いまだに改善されていない事に呆れてしまう。恐らく僕以外にも苦情の電話をしている方は沢山いるに違いないが、改善する意思がまったくないのか、上の人間に伝わっていないのか、もしくはシステム設計者が放置しているだけなのか、中の事は分からないが、この問題に真面目に取り組もうという姿勢は見えてこない。

個人的にはもう慣れた事なので気を悪くするような事でもないのだが、僕には1歳の娘がいるし、これからも僕と似たような境遇の子供達が大勢この世に生まれてくる。そういう子供達が少しでも楽に、そして日本国民として扱ってもらえるような社会になって欲しいという想いと、今後この国が少しでも本当の意味でグローバル化して欲しいと願うからこそ、今日、この出来事を書く事にした。

しかし、僕も物心がついて20年以上はこの国を見てきたが、正直なところまだまだ本当の意味でのグローバル化には時間がかかると感じている。どんなに頑張っても10年以上かかるのは間違いないだろう。20年以内に変われれば良い方だと思う。単純な問題のように感じられるかもしれないが、実際はかなり根深い。僕がこの国で娘を育てたくないと思う理由はそういうところにもある。

僕は日本が好きだし日本人も大好きだが、「国」としての体質は自分には合わないと感じている。今後、日本がもう少し柔軟になり、グローバル化が進んでくれる事を切実に願う。


*アメリカ以外で生まれた子にアメリカ国籍を与える条件:1986年11月13日以前は親が5歳以降10年以上アメリカの土地に住んでいた必要があった。1986年11月14日以降に生まれた子供は親が合計5年(そのうち2年は14歳以降)アメリカに住んでいれば子供に国籍を与える権利が得られる。詳しくは:http://travel.state.gov/law/citizenship/citizenship_5199.html

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