妻との出会い【その1】〜僕の人生を変えた犬達と赤信号〜
2006年6月、それは僕が日本に来てちょうど一年経った頃だ。
その頃はまだ父と暮らしていたため、犬の散歩を手伝ったりしていた。
僕は公園に向かう途中。彼女は公園から帰る途中だった。ちょうど公園の前の信号を待っている間の出会いだった。この信号が赤じゃなかったら、この日もお互いすれ違っていたかもしれない。同じ街に住んでいる二人、毎日同じ公園に犬を連れて通う二人、そんな共通点を持った二人でも、ちょっとした時間差でそれまで一度も会った事がなかったが、ちょっとした時間のズレで人と人はめぐり逢う。
信号が青になると彼女の犬が猛ダッシュでこちら側へ渡ってきた。その信号が赤になり、次また青になるまでの時間だろうか、犬同士の挨拶と人同士のたわいもない会話を一分ほどしてその日は帰った。
その時、その人と結婚する事になるとまでは思いもしなかったが、直感的に何かを感じた事は間違いない。6年経った今でも、その時の記憶が鮮明に残っているのだから。恋とかそういう事だったかは分からないが、とにかくまた会いたいと思った。だから次の日から散歩の時間を30分遅らせる事にした(笑)
僕は正直、女性と話す事が得意ではない。冒険や探検に明け暮れた少年時代の中には、女の子と上手く接する技術など磨いている暇はなかった。なので道ばたではじめて出会った気になる女性に声をかけるなど、今日で人生が終わるというような事態にでもならない限り、無理な話なのだ。
そんな僕でも自然と声をかけて会話が出来たのも、全ては犬のおかげである。
ハワイが田舎だったというのもあるかもしれないが、人が前から歩いてきたら当然のように挨拶するのが当たり前だと思っていた。だが、この街では人と人がすれ違っても挨拶をする事はそうそう無い。知らない人に挨拶をすると「変人」のような目で見られるからか、僕も東京に住んで1年もしないうちに知らない人に挨拶をしなくなっていた。
しかし不思議な事に、犬を散歩している人同士や、子連れ同士などは普通に挨拶ができるのだ。片方だけでもそれなりに効力はある。「カワイイ」などと言って話しかける「きっかけ」が生まれるからか、人と人の間に出来てしまった見えない壁を壊してくれるのだろう。
犬がいた事で出会え、犬がいた事で再会する事ができ、そして犬がいた事で何食わぬ顔で話しかける事が出来たのだから、犬は本当に偉大な存在である。
ただ、だからと言ってそれはあくまでも切っ掛けに過ぎない・・・。公園で毎日のように顔を合わせて話すようになったからと言って、その先までは犬は面倒を見てくれない。さきほども言った通り、はじめて会った女子と何を話して良いかは分からないので、たいした進展は望めない。
そんな時、アメリカのボストンから秘密兵器が日本へやってきた!
弟のマイケル!夏休みに日本に遊びに来たのだ!こいつは使える!
彼はトークのスペシャリストと言っても過言ではない。実際、今ではテレビやラジオでタレント活動をしているくらいなので、そういう素質を持った男なのは間違いない。
そこで、マイケルを引き連れていけば会話も少しは盛り上がるだろうと考えた。
しかし、マイケルはまさに「諸刃の剣」だった。話を盛り上げろとは頼んだが、まだアメリカ暮らしだった彼には加減というものが分かっていなかった。名前を聞くまではいいが、年齢、仕事や住んでいる所など、初対面にも関わらずプライベートな事までグイグイと聞き出そうとするのだ。
結果的には名前やどんな仕事をしているかなどの情報を入手する事が出来たので、一歩前進だった事は間違いないが、彼女はそれをナンパだと思ったようで、普段よりも早く切り上げて帰っていってしまった・・・。
次の日からマイケルには犬の散歩禁止令を出した。この先は自分でなんとかするしかないという事がよく分かった。
一時的に最悪な印象を与えてしまったものの、また少しづつ名誉挽回に励んだ事で、話も弾むようになり、自然と会話ができるようになった。ある時から彼女は2匹目の赤ちゃんのトイプードルを飼うようになり、この犬がちょっと間抜けだった事もあり、笑いを提供してくれた。やはり犬は偉大だ。
そしてある時、僕は勝負に出る事にした。
普段の会話の中で、僕が毎週末、新潟で父の家作りや農作業の手伝いをしている話をしていて、面白そうと興味を持ってくれていたので、誘ってみる事にしたのだ。
今思うと、いきなり新潟なんかに誘うというのは順序としては飛び過ぎていたのだろうが、僕の週末の手伝いというのはボランティアではなく義務化していた事もあって、週末に映画などのデートに誘うという発想が出てこなかったのだろう。
しかし、断られる覚悟で誘ってみると意外とあっさり「OK」という返事が返ってきた。
どちらかと言えば、断られる前提で誘ったので、来る時の事を深く考えていなかった。あの人物に会わせるという事を真面目に考えるべきだった。
父、ミゲール・・・。
一歩間違えるとマイケルレベルのイメージダウンどころの騒ぎではない。
そこで慌てて用意したのが「モスキートコースト」という映画のDVD。
この映画に出てくる無茶苦茶な父親こそ、まさに僕の父そのものなのだ。
流石にアフリカのジャングルとまでは行かないが、新潟の山奥の人里離れた小さな村で、この映画のような事をしているのは事実だ。家には蛾やネズミ、ムカデやヘビが普通に出てくるし、今でこそあるものの、以前は水道すらなかったような原始的な家だった。果たしてそんな所に女の子を連れて行ってもいいものなのか・・・。
誘ってから後悔する事になる。
とりあえずDVDを観てもらい、こんな生活である事を理解した上で、心の準備をして欲しい、と言ったのだが、どうやら真面目な話とは思っていなかったらしい。彼女も岩手の田舎の出身だった事もあり、ちょっとやそっとの田舎などへっちゃらだと思っていたのだろう。
しかし、このあと残念なお知らせがやってくる!
(続きが気になるところで申し訳ないですが、次回につづく!)
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